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丸山薫賞/平成25年度丸山薫賞決まる!
平成25年度
第20回
 
 
丸山薫賞

選考

平成25年9月6日、豊橋市役所会議室において第20回丸山薫賞の選考が行われ、議論の結果、暮尾淳さんの詩集『地球(jidama)の上で』(青娥書房 刊)に決定しました。

選考経過

本年度は諸般の事情で辻井喬委員を欠いた4名(伊藤桂一、なんば・みちこ、菊田守、八木幹夫)による選考会。菊田委員の司会進行により丸山薫賞の選考会が豊橋市役所にて行われた。候補詩集には暮尾淳『地球(jidama)の上で』、住吉千代美『分水嶺を越え』、中村不二夫『House』、若山紀子『夜が眠らないので』の4冊。その中でも、多くの支持を集めた住吉氏、中村氏からは選考委員との関わりを自ら配慮し、候補辞退の申し出があり、各選考委員としては波乱含みの選考会の始まりとなった。その結果、暮尾、若山両氏の二詩集にしぼり、作品をじっくり読み込むことを通して、各委員から率直な意見が交わされた。

若山氏の『夜が眠らないので』には日常の中にある、たまさかの殺意や生活に垣間見える破綻や亀裂を優しい言葉で掬いとる手腕があり、永年、詩を書かれてきた言葉の冴えには見事なものが感じられた。たとえば、作品「ねこふんじゃった」や作品「沈む」。

「だんだん沈んでゆく//くり返される爆発 殺人 戦争 汚職/そして/ことばや情緒や思考などというものまでも/すべて沈んでしまい埋めつくされて/でこぼこだけの/広い野っ原になったら/どんなに地球は清清するだろう/つるんとした地球の上で/黒い揚羽蝶が一匹/ぽつんと 所在なげに止まっている」(「沈む」部分)こういうことを幻視する若山氏の感性には敬服すべきものがあった。

一方、暮尾氏の姿は、この地球の上で、消え去ることもできず、さりとて人に浮わついたお世辞もいえず、蓬髪寒山・拾得のごとき風貌、言動。無手勝流悪あがき、よく云えば、無念無想、赤提灯の居酒屋でおだをあげる、最後の無頼派のごとき姿が詩篇の至るところから匂い(臭い)立つ。とはいえ、その作品は「私」を語っているようで「私性」からは幾分離れた宙空にその怜悧な目はあり、自らと他者を截ち切りそうで截ち切らず、一種独特の散文体をつくり出す。一篇の詩で自叙伝的な小説ができると評した委員もいるが、実はこの散文性こそが、暮尾氏の人生をかけた(大袈裟かな?)捨て身の詩そのものといえる。読み込むほどに、その語りの重層性には含蓄があり、主体の転移していくさまは、氏が獲得した詩的散文体ともいうべきものである。かつて多くの思想的詩人たちが転向に転向をかさねて体制の側に紛れてしまったが、氏はそのようには生きられない。小賢しく高みから俯瞰するのではなく、火中に栗を拾うが如きこの酔漢の目は時代に流され揺れる庶民の悲哀を凝視する。作品「水たまりの唄」はさりげない絶唱である。

川の流れが見たくなり/雨上がりの朝に/堤防につづく小道を歩くと/水たまりが出来ていて/高いポプラの木や/青い空が映っている/その逆さの風景を/覗き込む自分の姿は/巨人国の/子供のようで/いまこのときも/やはり誰かが/世界のどこかで/こんな水たまりをじっと見ている/地球は回っている/白い雲が浮かんでいる。//そんな思い出に/古里の/その小道も舗装され/水たまりは消えて/戦乱は地上に尽きることなく/などと加えてみても/おれは年を取ったというだけのことで。//いまではおれの膵臓の先っぽに/小さな水たまりが出来ていて/そこには海月のようなものが/一匹泳いでいて/お医者さんは癌らしいと言うのだが/もうそんなことは/どうでもいいでしょ/お休みなさいねんねしな/海へと流れる川の音が/子守歌を唄う。/(「水たまりの唄」全文)

こうして各委員の様々な意見交換の後、本年度第20回丸山薫賞を記念するに相応しい作品として暮尾淳氏の『地球(jidama)の上で』が委員全員の推薦で決定した。  

氏は長く金子光晴、伊藤信吉両氏に私淑され、晩年の伊藤氏への献身的な姿はとても印象的で、今回の受賞は故人、伊藤信吉さんも目を細めて喜んでおられるでしょうと委員の一部から声があったことも書き添えておきたい。


(文中敬称略)
(選考委員 八木幹夫 記)

受賞者紹介

 暮尾さんは1939年札幌市生まれ、東京都在住。
 1964年、金子光晴の詩誌『あいなめ』創刊に参加 。1973年、秋山清の詩誌『コスモス』(第四次)同人になり通巻76号から 終巻101号まで編集。詩誌『騒』創刊呼びかけ人。日本現代詩人会、日本文藝家協会会員。
 受賞者 

受賞の感想

思いがけずも初めて文学賞をいただくことになり選考に当たられたみなさまに感謝いたします。わたしが親炙させてもらった金子光晴、秋山清、伊藤信吉さんもあの世で喜んでくれていると思います。 

贈呈式

平成25年10月21日(月曜日)、豊橋市内のホテルで行われた。