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丸山薫賞/平成22年度丸山薫賞決まる!
平成22年
第17回
丸山薫賞
選考   平成22年9月2日、豊橋市役所会議室において選考委員全員の出席のもと、第17回丸山薫賞の選考が行われ、議論の結果、以倉紘平さんの詩集『フィリップ・マーロウの拳銃』(沖積舎 刊)に決定しました。
選考経過

 第17回丸山薫賞は第一次候補として、北海道から沖縄まで全国から233冊の詩集が応募、推薦された。
 この中から、選考委員の伊藤桂一、菊田守、辻井喬、なんば・みちこ、八木幹夫の5名、それぞれの委員が1~2冊の詩集を推薦し、次の7冊の詩集が最終候補として挙げられた。
 『女将』山本十四尾、『ZOLO』野村喜和夫、『ちかしい喉』松岡政則、『電話ボックスに降る雨』北川朱実、『人間の種族』崔龍源、『猫笑う』長嶋南子、『フィリップ・マーロウの拳銃』以倉紘平(詩集名 五十音順)
 今年度より選考委員に辻井喬、八木幹夫が加わり、伊藤桂一、菊田守、なんば・みちこの5名のメンバーで厳正な選考にあたった。
 『女将』の持つ散文家とは、ひと味異なる詩精神に並々ならぬ力量を感じるという意見やこうした世界は小説で表現する方が良いのではという対立意見も出た。
 『ちかしい喉』の自己に切り込む鋭さと果敢な言葉の研ぎ澄まし方は注目すべき感性であるが、後半の台湾詩篇とのバランスが詩集としての纏まりを欠いているとの意見もあった。
 『電話ボックスに降る雨』は実に軽快なフットワークでの移動感覚が詩篇にみなぎり、各詩篇の中の展開にウイットと深まりが見られて、北川の才能を充分に感じさせる詩集。
 『ZOLO』の散文と行分けの混交した作品のエロスにはこの時代の混迷に意識的に立ち向かう姿勢があるが、観念的な世界が充分な説得力を持ちえていない部分があるとの意見。
 『人間の種族』は在日のはざまに生きることの意味を問うていく姿が身辺から誠実に描かれている点は好感が持たれたが、ややセンチメントに流れているとの評もあった。
 『猫笑う』は日常の陰にひそむ悲哀と毒がユーモラスに軽快に語られて好感を持つという意見が多かったが、現実把握の仕方に類型化したところがあるという意見も。
 『フィリップ・マーロウの拳銃』は散文形式の作品が多いが、叙事の詩にありがちな語りっぱなしか感想を述べるだけのものと異なり、一旦、作者の内部をくぐり抜けた重厚な詩の醍醐味を感じさせた。
  以上のような様々な意見交換がされた後、最初の7冊から、4冊(山本、松岡、北川、以倉)にしぼられ、最終的に2冊、北川朱美作品と以倉紘平作品にしぼられた。
 この段階では選考委員の関心は以倉紘平作品の「フィリップ・マーロウ」とは誰かということが話題に。菊田委員が作品「定年」の中に村上春樹訳チャンドラーの探偵小説「ロング・グッドバイ」を読んでいたとあるから、その登場人物ではないか、ともらす。(後日、八木が確認。やはり、菊田説のとおり。うだつのあがらぬ探偵の名前。)他の選考委員も北川作品を高く評価しつつも、以倉紘平作品の安定した文体に包まれたそれぞれの「引用」がまるで、彼の作品そのものであるかのような輝きを放っていること。これは作者の力技ではないか。特に後半部3章の「サーラの木があった」の詩篇は読めば読むほどに深い瞑想と祈りの感じられる作品群であり、比較検討した結果、選考委員全員一致で、今回の丸山薫賞を以倉紘平の『フィリップ・マーロウの拳銃』に決定した。(文中敬称略)
(選考委員 八木幹夫 記)

受賞者紹介  以倉さんは、昭和15(1940)年大阪府生まれ。兵庫県尼崎市在住。
 神戸大学文学部国文科卒業。大阪市立大学文学部(国文科)修士課程卒業。
 大阪府立今宮工業高校定時制教諭を経て、近畿大学教授となる。
 井上靖『北国』を読んで詩に目覚める。伊東静雄、丸山薫、三好達治、田中冬二、金子光晴、嵯峨信之、安西均、伊藤桂一、新川和江諸氏の作品を愛読。小説では特に阿部昭氏の短編から影響を受ける。
 主な詩集に『日の門』(福田正夫賞受賞)、『地球の水辺』(H氏賞受賞)、『プシュパ・ブリシュティ』(現代詩人賞受賞)などがある。
 詩誌『アリゼ』『沙羅』発行人。日本現代詩人会、日本文芸家協会所属。
受賞者
受賞の感想  丸山薫の「帆の歌」「ランプの歌」「砲塁」「父」「学校遠望」「灰燼」「カロッサとリルケ」等の作品群は、その技法と新鮮さと切れ味の鋭さにおいて、今も私の憧れです。憧れの詩人の名をもつ賞を戴くことになって大変光栄に思います。
贈呈式   平成22年10月21日、豊橋市内のホテルで行われ、同賞委員をはじめ、日本現代詩人会会長の新井豊美さんら約100人が出席、女声コーラスの合唱や豊岡中学校による群読 などで祝福しました。