令和6年度(第31回)
 

 
    
        
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              令和6年9月6日(金曜日)に第31回丸山薫賞の選考が行われ、伊藤悠子(いとうゆうこ)さんの詩集『白い着物の子どもたち』(書肆子午線 刊)に決定しました。 
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            経 
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            と受賞理由 
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                                        (選考委員 中本道代 記) 
               第31回丸山薫賞の選考は本年9月6日(金曜日)、豊橋市役所内で行われました。 
             選考委員は高階杞一、高橋順子、中本道代、細見和之、八木幹夫の5名。 
             事前に候補詩集として挙げられたのは以下の8冊でした(並びは書名の50音順)。 
             
            麻生直子『アイアイ・コンテ―ラ』(紫陽社) 
            今井好子『朝の裏側へ』(土曜美術社出版販売) 
            松川なおみ『丘をのぼる』(思潮社) 
            神尾和寿『巨人ノ星タチ』(思潮社) 
            水嶋きょうこ『グラス・ランド』(思潮社) 
            伊藤悠子『白い着物の子どもたち』(書肆子午線) 
            野木京子『廃屋の月』(書肆子午線) 
            立花咲也『光秀の桔梗』(詩遊社) 
             
             まず、各委員が順に自分が推す詩集についての推薦理由を述べた。 
            『アイアイ・コンテ―ラ』は少数民族の言葉を標題としている。風景の歴史性を喚起し、歴史に潜む痛切な痛みが詩篇から浮かび上がってくる。語り口も色々な手法を使い、様々な角度から対象を捉えており見事。 
            『朝の裏側へ』は日々の生活を捉えながら詩を紡ぎ出している点に魅力がある。 
            『丘をのぼる』はあどけなさがあり、詩にしようとしていない良さがある。 
            『巨人ノ星タチ』は日常と非日常が混在していて、奇抜なことがらを書きつつもしっかりしたリアリティによって全体が支えられている。飛躍が巧みで一行先が見通せない魅力がある。何かの象徴や隠喩になり得ないものを書いている。 
            『グラス・ランド』は命の姿や日々のたたずまいを丁寧に書き、しっかりとした物語性のある世界を作っている。現代のコロナ禍やウクライナやイスラエルの戦争などには全く触れてはいないのだが、それらの問題とも接していることを感じさせる。 
            『白い着物の子どもたち』は生きることの悲しみを基調にしながら、これからを生きていく少年や少女たち、生きものたちへの愛情と共感が込められている。万葉仮名の歌が織り込まれていて時間的、空間的な拡がりと重層性がもたらされている。 
            『廃屋の月』は現実の世界と異界が入れ子のように存在するさまを捉え、幻想でありながらもリアルな現実感がある。別の世界につながる感覚を持つことで命・魂を浄化しているように感じられる。 
            『光秀の桔梗』はわかりやすく、誰でもが楽しめる面白さがある。複雑なものが多い現代において貴重な詩集である。 
             
            以上のような推薦理由が述べられたあと、候補詩集について自由に意見を交わし合った。その後、一人が3冊を選ぶこととなり、『白い着物の子どもたち』『廃屋の月』『アイアイ・コンテ―ラ』『グラス・ランド』が上位4冊として残った。この4冊についてさらに議論が重ねられた。 
            『白い着物の子どもたち』は詩集の中を「きれいな風」が吹いている。それは作者の祈りである、と推奨する発言があった一方、詩集の後半が弱いという意見が出された。 
            『廃屋の月』は自分にとって居心地の良い世界を作っているがそれでいいのだろうかとの意見が出された。 
            『アイアイ・コンテ―ラ』は勇壮で神話的であり、力量も候補詩集の中では抜群であると推奨された。一方でわかりにくいところがある、個人から出ているものが少ない、といった意見も出された。 
            『グラス・ランド』は、平仮名の詩の部分は言葉が乱反射しているようで像を結びにくい、という意見が出されたが、それは命の現象を書いているからだという見解が述べられた。 
             こうした議論を交わしながらも1冊に絞ることができず、最後は投票で決めることになった。結果は『白い着物の子どもたち』3票、『アイアイ・コンテ―ラ』2票となって、伊藤悠子『白い着物の子どもたち』を授賞作とすることに決定した。『白い着物の子どもたち』は、生きることの中にある悲しみと、子供たちや動植物など無垢なものを思う気持ちの深さが込められた優れた詩集であることが評価された。(文中敬称略) 
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            | 受賞者紹介  | 
            
              1947年東京生まれ。津田塾大学英文科卒。日本文藝家協会、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会、詩誌「左庭」所属。2005年から稲川方人氏と吉田文憲氏の詩の講座に2年半通った。2007年第一詩集『道を 小道を』刊行。第二詩集『ろうそく町』で第44回横浜詩人会賞受賞。第三詩集『まだ空はじゅうぶん明るいのに』で第34回現代詩花椿賞受賞。本詩集は第五詩集。 
              
              
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            受賞者 伊藤悠子さん 
              
            受賞作品『白い着物の子どもたち』 
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            | 受賞の感想 | 
            この度は歴史ある「丸山薫賞」に選んでいただいてありがとうございます。個人的には57年間ともにすごした夫に先立たれ寂寥感のある日々ですが、受賞の知らせをいただいて、北国の春の子どもになり、丸山先生に「まんさくの花が咲いた」と持っていきたい気持ちです。あたたかで郷愁に満ちた詩人がふと止まってくださるようなうれしさがこみあげてまいります。いただいた光を胸に生活し、世界をみつめる努力を重ねてまいりたいと思います。豊橋市の関係者の皆様、選考委員の皆様、誠にありがとうございました。これからも末永く「丸山薫賞」が現代詩を見守ってくださいますように。 
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            | 贈呈式 | 
            
               
            令和6年10月21日(月曜日)、豊橋市内のホテルで贈呈式が行われました。 
              
              
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