丸山薫賞/令和8年度

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丸山薫賞/令和8年度
丸山薫賞/令和8年度
令和8年度(第33回)
 

丸山薫賞

 

選考

令和8年8月25日(火曜日)に第33回丸山薫賞の選考が行われ、岩阪 恵子(いわさか けいこ)さんの詩集『一羽』(思潮社刊)に決定しました。

選考経過と授賞理由

(選考委員 八木幹夫 記)

第33回丸山薫賞の選考は令和8年8月25日(火)、豊橋市役所で行われた。選考委員は高階杞一、高橋順子、中本道代、細見和之、八木幹夫の5名。全国からの推薦、応募作品の中から各選考委員が2冊を選び最終候補詩集とした。以下7冊の詩集が選考対象。

岩阪恵子      一羽           思潮社
黒田ナオ      蚊取り線香の匂い     空とぶキリン社
杉本 徹      逆光地図         ふらんす堂
長田典子      錨氷           ミツイパブリッシング
金春康之      ふる里          編集工房ノア
尾崎美紀      真っ白な美しい骨     空とぶキリン社
鈴木清美      夜より暗い        土曜美術社出版販売
(詩集名五十音順)

細見選考委員の進行で、各選考委員から自分の選んだ作品の推薦理由を述べてもらう。
一巡して、各作品への批評的意見。
『一羽』は散文的な要素の強い部分、例えば「O町の人びと」以下の連作はやや詩的要素が欠けるという意見。しかし文章は丹精で、「影をひろう」や「泥の家」は魅力的であった。『蚊取り線香の匂い』は日常から非日常へいつのまにか入り込んでいく詩篇。「温泉旅行」は面白い。メルヘン的な世界にとどまっている所が気になる。『逆光地図』はやや表現が韜晦。言葉が読む側に向けられていない。自己に酔う危険を感じる。ただし、Ⅲ章の「砂時計の砂」や「海への地誌」には丸山薫の海の抒情と共通する現代的な詩情がある。『錨氷』は詩篇の前段にアイヌに関する散文があり、その後の詩篇に一種の憑依、シャーマン的な表現が噴出する。しかし詩として凝縮度があるのかどうか。永山則夫を扱った作品も同じ手法で書かれている。パターン化した表現に難点があった。『ふる里』の素直で素朴な表現は抒情的で穢れを感じさせないが、はたして詩の持つ激しさや厳しさがあるかどうか。『真っ白な美しい骨』は過ぎ去った過去の日々を抒情性こめて描いているが、廃屋の家や死者が作者の眼で昇華され切っていない。『夜より暗い』はやや観念的な言葉の固さがあり、詩としてこなれていない。集中「石蕗」「車窓より」は佳品である。以上が委員相互で交わされた意見。
最終段階の絞り込みで、各委員(5名)が7詩集の中から3詩集を選ぶという意見がでて、その最高点を賞として決定することとした。その結果
『一羽』       4票
『錨氷』       3票
『ふる里』      3票
『真っ白な美しい骨』 2票
『逆光地図』     2票
『蚊取り線香の匂い』 1票
『夜より暗い』    0票
となり、全5名の委員のうち、4名の委員票が集まった岩阪恵子氏の『一羽』を本年度の丸山薫賞に決定した。
受賞作『一羽』は自然の中に分け入って鳥や昆虫や鳩などを静かに観察する眼が鋭い。「泥の家」のように奇妙な世界に読者を引きずり込んでいく作品もある。木犀の幹にできた泥の家。その穴から泥蜂が出入りする。泥蜂がいなくなって、穴の奥から見られている気配を感じ、中に入ってみる。さながらカフカの世界だ。あとは作品を読んでみて欲しい。「いきむ」ではスズメガの幼虫が糞をするさまを描き、ヒトの排便と比較する。目は優しく観察しているようで、実はその現場にするどく切り込んでいく。「影をひろう」には午から夕べに移るころ、日差しから生まれた様々な「影」(家屋、木立ち、電信柱、カラス、エノコログサの影)をひろって歩く。「射干」の花との林の中での出会いも半世紀以上の時間経過を含みながら射干にむかって「しばらく」と挨拶する。そこに時間の余情がながれる。散策する作者には単なる自然観察者とは異なる散文家の批評性と詩人の目が備わっている。「ずれ、ほどけ」はこの詩集の掉尾を飾る作品で、「流されていく土色の雲の、躊躇わず涌きでる嫩葉の、熟れはじめた甘苦い麦の、しなやかにそよぐ草の刃の、~」(以下省略)から「ただに獣の気配はなく、ヒトの影はなく。」の表現に岩阪恵子の詩的開花を見たように思った。
(文中敬称略)

受賞者紹介 

1946年、奈良県生まれ。東京都在住。関西学院大学文学部史学科卒業。既刊詩集に『その路地をぬけて』(2016年 思潮社)、『鳩の時間』(2019年 思潮社)第57回歴程賞。『一羽』(2026年 思潮社)は第3詩集。

 
 

岩坂恵子さん

岩阪 恵子 さん

 『一羽』

『一羽』

受賞の感想 丸山薫は生来の詩人である、とその詩に接したあといつも思います。詩集『帆・ランプ・鷗』のなかに「象と陽かげ」という作品があります。この好ましい詩を読むたびわたしは、ここに書かれている物憂げで考えがちな象は丸山さん自身であろうな、と思うのです。三好達治が「丸山はその名の如く山のやうな巨人で、巨人に似合はず羞かみやで、白皙の童顔をいつも眩しさうにむつつりしてゐた。」(「文學的青春傳」)と記しているのもあわせて、作中、「成程。これがおれの影だな。すると、おれはこんな屋根のやうな廣い陽かげを自分で拵へてゐるのだな。つまりこのおれ自身が陽かげなのだな。ふむ、ふむ……」と呟いている象であって詩人でもある丸山薫をごく身近に親しく感じているからなのです。
このたび、その名を冠した「丸山薫賞」をいただくことになり、たいへん嬉しく思っています。
贈呈式

令和8年10月27日(火曜日)、豊橋市内のホテルで贈呈式が行われました。

贈呈式
 

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