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農業委員会だよりNo63

農業委員・農地利用最適化推進委員の視察研修を開催

 令和6年1月19日、6名の農業委員、農地利用最適化推進委員と事務局を含む7名で、奈良県大和郡山市農業委員会における特産品加工や新規就農者支援の取り組み等について視察研修を行いました。
 「金魚のまち」として全国的に知られる大和郡山市は、奈良盆地の北西部に位置し、内陸性気候で概ね気候は温暖。京阪神大消費地への至近性を活かし、多品目少量生産ながら高度な栽培技術を駆使した生産性の高い多彩な農業を展開しています。
 大和郡山市の特産品としては、近隣の奈良市や天理市とともに、イチジク、筒井れんこん、イチゴ、大和丸なす、トマト等の園芸作物が集約的に栽培されています。特にイチジクは、奈良県が全国6番目の生産量で、その8割以上を大和郡山市で栽培、出荷しています。また、イチゴの栽培も盛んで、大和スイカに変わり、最近では新規就農者を中心に高設栽培で奈良県特産品種「古都華(ことか)」の栽培が増えています。

 ◆特産品果実(イチジク、イチゴ)の加工品(フルーツビール)を生産◆

まずイチジクについて、一大生産地であるにもかかわらず認知度が一般的に低いことがきっかけとなり、大和郡山産イチジクをPRする方法として農業委員会が企画しました。イチジクは樹上熟成したものを出荷するため、傷つきやすく出荷できないものも多く、これらを再利用できないか、また、それを新規就農者の支援、農家支援に結び付けられたら、と考えたそうです。そして、この企画が『イチジクビール』の開発へとつながりました。
 イチジクを使ったクラフトビールは全国で醸造(神奈川、秋田、愛知、島根、石川、広島)されているが、関西圏では醸造されていませんでした。また、大和郡山市にはクラフトビールの醸造所自体がなく、県内の醸造所についても繋がりがありません。そこで以前、市内の酒造会社に勤務され、耕作放棄地に酒造好適米を農業委員会で栽培し、醸造過程において大変協力して頂いた「ことことビール」の坂東社長が独立してビール工房を立ち上げたのを機に、立ち上げたばかりのビール工房のPRにもなり、インパクトのある企画であると考え、両者で『イチジクビール』の醸造を企画し商品開発を進めることになりました。
 原料のイチジクについては、市内でイチジク栽培で新規就農した方、農地利用最適化推進委員でイチジク栽培をしている方、元農業委員等、農業委員会と関係のある農家の方に、農業委員会から協力を依頼した結果、市内のイチジク農家8戸から廃棄予定のイチジク(割れている、傷がある、不成型、熟しすぎている等)を130kg集めることができ、2022年11月にイチジクのクラフトビールの醸造を開始しました。集まったイチジクは、「ことことビール醸造所」で、手作業で時間をかけ果汁を絞りますが、果汁にとろみがあるため、麦汁を絞る際に大変苦労されたそうですが、2022年12月に初めてのイチジクのクラフトビール完成にこぎつけました。
 ビール瓶ラベルのデザインについても手作りにこだわり、NAFIC(県農業大学校)2年生磯部俊恵さんと娘さんの芸術高校1年生の磯部那由多(なゆた)さんに依頼し、大和郡山のまちの特徴を生かした、金魚、イチジク、ビールの泡、柳沢公の家紋、紺屋町の藍をイメージしたラベルが出来上がりました。
販売先については、農業委員会とつながりのあるイオンや農産物直売所に直接お願いして取り扱ってもらったそうですが、市販のビールと違い、イチジクを使ったクラフトビールのため年間出荷はできず、300リットルタンクで製造した分のビールが完売して終了となりました。そのため、通常のクラフトビールよりも価格帯を高く販売したといいます。
また、『イチジクビール』を醸造するときに出た搾りカス(麦芽、イチジク)についても、イチジク畑の有機肥料として資源再利用にも配慮しているそうです。
なお、開発の際には無償提供された原材料での醸造となりましたが、今年からは「ことことビール」が原材料(イチジク)を有償で仕入れることにより、農家の収入にもつながっていきます。そして、この事業のために農業委員会が要した費用については、結論から言えば発生していないといいます。通常の農業委員会の事務費の中で、PR用資料の作成のために若干の支出はありましたが、原材料のイチジクは農家からの無償提供で行えたことと、ビール醸造はその原材料を「ことことビール」で醸造していただいたためです。
 そして、2022年12月発売『イチジクビール』が発売からわずか3週間で完売したことを受けた今後の展開として、農業委員会では第2弾として「ことことビール」と大和郡山4Hクラブに、新規就農する若者にも人気のあるイチゴを利用した『いちごビール』の醸造を提案しました。事業の手法自体は『イチジクビール』での商品化成功の経験を生かして、2023年8月に販売し、好評を得ています。
 『イチジクビール』でも、『いちごビール』でも、農家にとって現状は大きな収入源とはなりませんが、「ことことビール」が原材料(イチジク、いちご)を仕入れることにより、農家の収入になります。今後は、この事業が安定的に継続して、大和郡山市の特産物のPR、話題性を提供し、営農意識の向上や若手農家支援、新規就農者の増加に繋がればと思います。
 また、この視察研修に参加した夏目委員からは、自身も『いちごビール』を作った経験から、金融機関等の支援が大切なことを、岩瀨委員からは、『イチジクビール』醸造にチャレンジした大和郡山市農業委員会の商品開発力には十分参考に値し、付加価値の高い農業を目指す姿勢には感銘に値する、という意見がありました。
 農業の6次産業化が提唱される中、豊橋においても、私見ではありますがアールスメロンの加工品を使い『イチジクビール』の様に『メロンビール』なるものができないか?と思いました。難しいことではありますが。

  itigo_beer

 次に予定の研修時間も少なくなり、大和郡山市における地域計画策定にあたっての説明がありました。
 大和郡山市において、地域計画策定で心掛けたことは、(1)集落ごとに、風習・習慣・地域性が全く異なる、(2)説明資料は、簡単・簡潔・明瞭に、(3)農水省の策定マニュアルにとらわれない、の3つです。その上で地域計画策定にあたり、農業委員・推進委員・事務局プラス地元が同じ方向を向く、地域計画を知る、地域の実情を知る、戦略を練る、戦術を考える、地元のキーマンを味方につける、の方針をもとに、市内59の農村集落のうち「人・農地プラン」を策定した52集落の全てにおいて地域計画を策定したいところですが、時間的にも人員的にも困難であると考えており、兼業農家が多く、担い手がいる集落を優先的に地域計画を策定しているとのことです。
豊橋市の農業とは、規模も有り様も異なりますが、どの地域においても担い手問題は、深刻な農業問題の一つだと改めて認識させられました。そして、大和郡山市の様に若い担い手を中心に地域計画を策定することは十分に参考になると考えます。
 最後に、今回の視察研修に参加をさせて頂いたことに感謝し、つたない視察研修報告とします。

 

 令和6年2月 豊橋市農業委員 彦坂 正志